オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)



Tairaオススメ度:★★★★

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警察から逃げる途中で気を失った伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。
江戸以来鎖国を続けているその孤島では、喋るカカシが島の預言者として崇められていた。
翌日、カカシが死体となって発見される。
未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか?ミステリーの新時代を告げる前代未聞の怪作。
第五回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。
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面白かったです。
ミステリー小説と言うよりは寓話を読んだ後のようなふんわりとした温かな読後感ですね。

ミステリー小説的な起承転結がはっきりとした起伏にとんだ物語展開はありませんが、主人公の「伊藤」が登場する寓話的要素が強い章をメインにしつつも、ところどころにスリリングなミステリー要素が強い「静香」の章を差し込むことで、物語を間延びさせることなく、メインののんびりとした章を逆にもどかしく感じてしまうような物語の構成はさすがの一言ですね。

またこの小説は、現在の社会が抱える様々な矛盾や行き場の無い憤りがテーマの根底にあるような気がします。
例えば、突然何の前触れも無くもたらされる無慈悲な暴力に対して全く無力な社会のシステム、このような暴力に対抗できるのは果たして裁判なのだろうか、精神鑑定なのだろうか、懲役なのだろうか、この問いに対してこの小説では一つの選択肢を提起しています。

その選択肢が現在の社会で適応されるかどうかと言えば、間違いなく適応されませんが、少なくとも僕自身はこの選択肢が示されたことで、とてもスッキリとした気分になることが出来ました。

その他にも、人間のエゴが起因となってもたらされているいろいろな問題についても、それとなく皮肉を含めて言及されているように思えます。

それでいても、嫌み無くすっきりと読めるのは、伊坂幸太郎独特の洒落た文体が秀逸だからだと思います。

とても面白い内容だったのですが、伏線の張り方が少々強引なところもあったように思えましたので、星は4つとさせていただきました。

あくまでも私見です。あしからず。